ディジョンは、フランス中部に位置する都市で、ヨーロッパの東西と南北を結ぶ街道の要衝にあり、ローマ人によって建てられた都市が始まりです。
中世に比類なき繁栄を誇ったブルゴーニュ公国は、芸術を奨励したことでも知られ、その伝統によって生まれた「ディジョン美術館」は、14-15世紀、ディジョンがブルゴーニュ公国の首都だった頃のブルゴーニュ大公宮殿の東ウィングに納まっています。
ただ宮殿には当時の名残はほとんどなく、大部分がヴェルサイユ宮殿を建てたジュール・マンサールによりローマ建築風に増改築されています。
この美術館は、ルーヴルに先立つ1787年にフランス最古の美術館の一つとしてブルゴーニュ大公の収集品を中心に開館しています。
フランスの地方都市の美術館の多くは、1789年の革命後、共和国政府が民衆の啓蒙のために王家や貴族が所蔵していたコレクションを分散し、創設されたものが多いのですが、ディジョンの場合は、中央からそうした通達が来る前に、独自で美術館を設立していました。
絵画に加え、エジプト、ギリシャ、ローマ時代からの遺物、家具、彫刻等幅広い作品が展示されています。
豊富なコレクションの中から幾つか目を惹いた作品を採り上げてみましょう。
先ずは一対の「シャンモル修道院祭壇画」。1399年頃完成。ウルトラマリン・ブルーを惜しげもなく使い、国際ゴシックの影響を留めるものの写実的、人間的で色彩豊か。非常に品質が高い。
作者はメルキオール・ブルーデルラム。1381年から1409年にかけてブルゴーニュ公フィリップ2世らに仕えていた記録が残されているのみの画家です。
ほぼ確実にブルーデルラムの作品であろうと考えられているのは、板に描かれたこの作品のみと言われています。
続いてロベルト・カンピンの「キリスト生誕」。
彼はヤン・ファン・エイクと共に初期フランドル絵画を代表する一人ですが、エイクと異なり、作品に署名も作成日も残さなかったため、確実に彼の作品と言えるものは現存していません。
ただ彼の記録については当時としては比較的残されている方で、1375年頃ヴァランシエンヌの生まれとされ、1406年トゥルネーに工房を開き、1444年その地で没するまで徒弟が絶えなかったと言われます。徒弟の一人が有名なロヒール・ファン・デル・ウェイデン。
カンピンはそれまでのテンペラではなく、新技術の油絵具を使いこなし、美しい色彩を表現した最初の画家の一人でした。油彩という新しい技法で明暗を描き出すことで、絵画に立体感や複雑な遠近感などを構成することに成功したのです。
「キリスト生誕」は1420-26年頃の作とされますが、多彩な人物表現に加え、西洋で最初の自然な風景描写のある絵画です。
その他にもロレンツォ・ロットの「婦人の肖像」、ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの「ランプをともす少年」、モローの300 x 319cmの大作「雅歌」、ティソの「銭湯での日本女性」等素晴らしい作品が目白押しなのでした。
もっとも、ティソのモデルの女性はどうみてもフランス人のようですが。