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美術館訪問記 - 419 サンセヴェーロ礼拝堂美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1: サンセヴェーロ礼拝堂美術館入口

添付2:サンセヴェーロ礼拝堂美術館内部
写真:Creative Commons

添付3:ジュゼッペ・マルティーノ作
「ヴェールに包まれたキリスト」

添付4:ジュゼッペ・マルティーノ作
「ヴェールに包まれたキリスト」拡大像

添付5:フランチェスコ・クエイローロ作
「暴かれた欺瞞」
写真:Creative Commons

添付6:アントニオ・コッラディーニ作
「羞恥」
写真:Creative Commons

添付7:人体模型

ここ2回参照しているトリブナリ通りを西に行って、 サンタ・マリア・マッジョーレ・アッラ・ピエトラサンタ教会の横の小路を 左に入ると「サンセヴェーロ礼拝堂美術館」があります。

ここは一般観光客にとっても必須の場所らしく団体客で混んでいました。

この礼拝堂は殺人事件がきっかけで建てられたのです。

1590年、ある男が妻とその恋人を殺害。恋人の母アドリアナ・カラファは初代 サンセヴェーロ公フランチェスコ・ディ・サングロの妻でしたが、息子の死を悼み 彼の魂の永遠の救いを聖母マリアに祈るためにこの礼拝堂を建てたのでした。

時代は下って1749年に第7代サンセヴェーロ公ライモンド・ディ・サングロが、 この礼拝堂に装飾を施して再建し、現在は美術館として公開されています。

ライモンド公は科学者であり文学者、錬金術師でもあり、美術にも造詣が深い 稀代の人物で、彼の指示監督によるこの礼拝堂内の装飾が凄まじい。

堂内はバロック装飾に溢れ、大天井画や壁画、主なものだけでも23の彫像と 3点の絵画があります。中でも世界的に有名なのが 礼拝堂の中央やや主祭壇寄りに置かれた彫刻「ヴェールに包まれたキリスト」。

キリストの額や手足には生々しい血管が浮かび、その上を薄い透きとおった ヴェールが包んでいるという極めて繊細な彫刻で、 これが大理石でできているとは信じられない質感があります。

キリストの足もとには、受難の象徴である茨の冠と釘3本、釘抜きが置かれ、 キリストが凄惨な受難の末に安らぎを得たことを表しています。

1753 年に作られた作品で、作者のジュゼッペ・マルティーノは、 大理石を使って透き通るほど薄い布の質感を出す技法で有名な彫刻家です。

かのカノーヴァですら、この技術を学ぶために何度もここに足を運び、 この彫刻を見学したけれど、技術習得には及ばなかったと本人が言ったほどです。

ライモンド公の好みなのか当時の風潮なのか、 ここにある彫刻は身体に纏った布の表現が巧みなものが多い。

特に太いロープで編んだ網を頭から被った男の彫像「暴かれた欺瞞」は 全身に絡みつく網がとても大理石でできているようには見えません。 ローマのトレヴィの泉を飾る「秋の寓意像」を作った フランチェスコ・クエイローロの代表作。

ライモンド公が父親に捧げたもので、一方薄布をまとった女性裸像「羞恥」は アントニオ・コッラディーニの作で、ライモンド公が生まれて間もなく 亡くなった母親に捧げたものです。

アントニオ・コッラディーニはヴェネト地方の出身ですが、1740年以降は ナポリで活躍。演劇性を強調した作品を多く残しています。

ここの地下には礼拝堂にはそぐわぬ男女の人体模型がガラスケースに入って 置かれていました。

本物の骨格を使った人体立像に内臓模型をつけた標本ですが、 異様なのは毛細血管を含む血管が全身に張り巡らされている事。 このようなものは他に見た事がありません。

これらはライモンド公がシチリアの医者ジュゼッペ・サレルノと共に作ったものと されています。どのようにして、どんな材料や道具を使って、 2人がこの精巧な模型を作ったのかは、未だに謎に包まれているのだとか。

ここも館内は撮影禁止で添付写真は美術館HPとWikimediaから借用しました。