囲碁日記

日経MJ記事


* 囲碁ファンとしてはうれしい記事を紹介。

女の子の心、包囲―「性格出る」恋の一手にも(ブームの予感)

 年配の男性が日中に碁会所に集まり、碁盤を囲んでじっくりと対局。囲碁に染みついた、そんなイメージを覆す光景が最近、目につく。カフェのような明るいサロンで、若い女性が会社帰りに対局したり、ビールやシャンパンを片手にレッスンを受けたり。
相手の心を読んで打ち進める真剣勝負に「対局すれば互いの性格が分かる」と、デートで囲碁をするカップルも登場している。

 金曜日の午後7時。東京都千代田区にあるダイヤモンド囲碁サロンに、仕事後の女性たちが集まってくる。囲碁サロンといっても、雰囲気はまるでカフェ。紺と黄色の椅子が交互に置かれ、店内はポップで明るい印象だ。テーブルの上には碁盤が並ぶが、その横には小皿におつまみ。仕事帰りの一杯を楽しみながら碁盤に向き合う。

 「よろしくお願いします」。千葉県在住の会社員、倉重はるなさん(29)がこの囲碁サロンに来るのは3回目。サロンを運営する方円企画(東京・千代田)のスタッフの梅木大輔さんが相手になってレッスン開始だ。
 最初は囲碁好きの友人に連れられて来たという倉重さん。「上達したくて」と今日はひとりで訪ねた。囲碁をやるようになって「普段なかなか話さない年上の世代の人と会話するようになった」といい、会社の昼休みに週に1度、年上の同僚と対局している。「それがずーっと負けっ放しで。今年中に1勝するのが目標なんです」
 レッスン中も1手ごとに頭を抱える。それでも「明るいこの雰囲気なら気軽に来られる」と、サロンには好感を持っている様子。ほかの対局をみても、年の差を超えて碁盤を囲む姿がちらほら。「参りました」と若い女性に頭を下げる、スーツ姿の白髪交じりの男性もいる。

 ダイヤモンド囲碁サロンは会員制ながら、会員でなくても参加できる。若いスタッフがそろうせいか、「20〜30代の女性の参加者が多くなっている」(方円企画の白江徹一代表)という。もちろん、腕に覚えのある人も対局をしに集まってくる。水・金曜日は交流会と称して午前0時まで営業しており、2100円でレッスンが受けられる。
 囲碁は2人のプレーヤーが縦横19本の線がかかれた19路盤と呼ばれる碁盤上の領土の広さを競う。初心者にはより簡単な13本や9本の線でマス目を作った小さな盤もある。
 対局は相手と1対1。自分の狙いだけでなく、相手の出方も読まなければならない。サロンに“囲碁デート”をしに来ていた堀内和一朗さん(31)、美穂さん(34)夫妻は「余計なことを考える余裕がないので、打ち方に地が出る」という。
 実はこの2人、「囲碁がきっかけで結婚した」そうだ。「一生続けられる趣味を見つけよう」と始めた和一朗さんと、「パズルや将棋などのゲームがもともと好き」という美穂さんが出会ったのは、囲碁の普及のために設立されたボランティア団体「IGO AMIGO」が開催するイベントだった。若手のプロ棋士がレベル別に指導してくれたり、同じレベルの参加者同士が対局したり。ときにはフラワーアレンジメントなどのほかの遊びと囲碁を一緒に楽しむコラボレーションイベントもある。80〜100人が集まって盛り上がる。
 どんなときも1局勝負する間は、じっくり対局相手と向き合うことになる。「おとなしい人の打ち進め方が積極的だったりと、本来の性格がみえてくる」(美穂さん)。そのおかげで、「何度か対局するうちに、この人ならと思った」(和一朗さん)と結婚にまで至ったそうだ。

 IGO AMIGOは囲碁をPRするフリーペーパー「碁的」も発行している。2010年の最新号では表紙には華やかに変身した女性棋士の万波佳奈さんが登場した。「女性に親しんでもらえる内容にした」と、編集部の王真有子さん。発行した4万部はゆうちょ銀行の店頭などに置かれ、女性誌と見間違えるようなデザインが話題となった。
 囲碁を楽しめるバーもできている。「エストレラ」(大阪市)は囲碁カフェ&バー。「ダーツバーのような感覚で飲みに来られるようにした」(店長でプロ棋士の円田秀樹さん)といい、用意する碁盤は10面以上。夕方以降は若い世代が集まる。東京都港区のバー「汐音(しおん)」は毎週火曜日が囲碁デーだ。

 レジャー白書(日本生産性本部)によると、2009年の囲碁の参加人口は640万人。将棋やマージャンの参加人口と比べると半数程度だが、伸びしろがあるとも解釈できる。2002年ころには漫画「ヒカルの碁」が子どもたちの人気を集めた。当時の小中学生が大学生や社会人になり、再び囲碁を楽しんでいるらしい。日本棋院によると「40〜50代での囲碁人口が減る一方、10〜20代は増えている。小中学生での人気は最近も衰えていない」そうだ。

2011年4月25日月曜日・日経MJ 記事




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