前回、国民一人当たりの所得は、購買力平価ベースでは、 ルクセンブルクが世界一と言いましたが、 一人当たりの国民総所得では、モナコ公国、通称モナコが世界一。
モナコは国連加盟国の中では世界最小で、面積僅かに1.95k㎡。 つまり2km x 1kmの長方形の中に収まってしまう。人口3万人余り。
ここに「訪問チャペル美術館」があります。
場所はモナコ大公宮殿と海の間、モナコ・ヴィレという岬の丘の上にあるのですが、 いろいろと試してみても、その地区に車で入る事ができない。
住民証か特別な許可証を持っていないと、 いずれも地区の入口で警察官に止められてしまいます。
しかたがないので、地区の手前にあった駐車場に車を停め、 歩いて坂道を登りました。
ここから見る、湾と対岸のモンテカルロの眺めはなかなかのものです。
訪問チャペル美術館は昔教会として使われていたものが、 そのまま美術館になっているもので、入場料を払って入ります。
「訪問」とはVisitationの事です。
英語では、文中でも大文字のVから始まるこの語は、 聖母マリアが受胎告知の折に、 親類のエリザベトが妊娠6カ月であることを知らされ、彼女を訪れたという ルカ福音書の出来事を意味します。
ここは昔、その出来事を記念した教会だったのです。
『訪問』は絵画の主題にもよく採り上げられています。
エリザベトから生まれる子が洗礼者ヨハネで、後にキリストを洗礼し、 サロメに、踊りの褒美に首を所望され、斬首される事になります。
美術館に入ると、昔主祭壇だった正面に17世紀制作のタペストリーが掛けられ、 その下に17世紀にスペインで描かれた、 12使徒と洗礼者ヨハネの13点のモノトーンの油彩画が並んでいます。
両側の壁にスルバランの「聖セバスティアンの殉教」、 ルーベンスの「聖ペテロ」と聖「パウロ」、 リベーラの「聖バルトロメオの殉教」の4点と作者不詳の2点が掛っています。
入口上の壁にイタリア人画家による宗教画2点。
コレクションはこれだけ。
何れも17世紀のバロック絵画で、高さ2mを超す大作揃い。
これらは全て、バーバラ・ピアセッカ・ジョンソン・コレクションからの 長期貸与となっています。
このバーバラ・ピアセッカという女性がチョット面白い。
1937年ポーランドで生まれ、大学の美術史科卒業後僅か100ドルの所持金で渡米。
製薬業界世界第2位のジョンソン・エンド・ジョンソンの創設者の息子の奥さんに コックとして雇われますが、余りの料理の下手さに1ヵ月後にジョンソンの 部屋付き女中に転向。1年後にはジョンソンの収集品の学芸員に転向。
1971年、ジョンソンと結婚。2人の歳の差は42歳。この時ジョンソンは76歳。
1983年、ジョンソンが死亡した時に、全財産を彼女に残すという遺言書があり、 前妻、前々妻との間に生まれていた6人の子供達との裁判となりましたが、 遺産の12%を子供たちに支払う事で決着。
2013年のフォーブスの長者番付では彼女は世界376位にランクされています。
このバーバラ・ピアセッカ・ジョンソン・コレクションのなかに、 あのフェルメールが描いたとされる、「聖女プラクセデス」も含まれているのです。