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美術館訪問記−608 中尊寺

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:中尊寺境内案内図

添付2:月見坂参道

添付3:讃衡蔵正面

添付4:讃衡蔵内丈六仏

添付5:紺紙金銀字交書一切経

添付6:金色堂外見

添付7:金色堂正面

添付8:金色堂内部

添付9:金色堂入口からの眺め

添付10:芭蕉翁像

前回の花巻市から南へ50㎞余り行くと岩手県平泉町があり、 慈覚大師によって850年に開山され、奥州藤原氏初代清衡によって造営された 「中尊寺」があります。

日本の神社仏閣を採り上げるのは初めてですが、中尊寺は、 「金色堂」はじめ3,000点余りの国宝や重要文化財があり、 平安美術の宝庫ともいえるところですからたまにはよいでしょう。

最初に中尊寺境内案内図を添付しておきましょう。

図の右端にある県道300号のすぐ東をJR東北本線、その東200m足らずのところを 国道4号線が通っていますが、参道である月見坂は、少し登っただけで、 そこはもう情緒あふれる別世界。

杉の古木に囲まれた静寂な道を当時の栄華を偲びながら進みます。

これらの杉は、樹齢350‐400年、江戸時代に平泉を治めていた伊達藩によって 植樹されたものです。この老杉の並木道は、約800m続きます。 霊験ある雰囲気を醸し出して、登るに連れ徐々に心が浄化されていくようです。

参道に沿って幾つものお堂が並んでいます。

私の興味は美術品にあるので、これらのお堂については数あるガイドブックを 参照して頂く事にして、境内案内図で白抜きで示されている「讃衡蔵」へ。

讃衡蔵(さんこうどう)には、中尊寺に伝わる3000点以上の国宝、重要文化財が 収蔵され、奥州藤原三代(清衡・基衡・秀衡)の偉業を讃えるという意味で 名付けられたもので、現在の建物は開山1150年を記念した、2000年の新築です。

中尊寺内の見学は自由ですが、この讃衡蔵と金色堂、旧覆堂、経蔵だけは 共通の拝観券の購入が必要となっています。

入館すると畳敷き広間奥に鎮座する三体の丈六仏の荘厳な姿に打たれました。 丈六仏(じょうろくぶつ)とは、立像の高さが1丈6尺(4.8m)の仏像のことで、 ここにあるのは坐像ですから、その半分の8尺(2.4m)の大きさ。 ちなみに、丈六仏より大きい仏像が「大仏」と呼ばれます。

中央が阿弥陀如来坐像、左右は薬師如来像。3体ともに桂材で、 いずれも平安時代後期の作とみられ、おだやかな表情をしています。 衣の襞の曲線が美しい。

皆、中尊寺境内にある諸堂の本尊だったもので、 かつてはこのような仏像が中尊寺域内に数多くあったと思われます。

それらの内、大日如来坐像や騎師文殊菩薩像と四眷属像などが展示されていました。 大日如来は密教(9世紀初頭に最澄と空海が伝えた)の尊像を指し、 文殊菩薩は、文殊の知恵と言われるように知恵を備えた菩薩で、 慈覚大師円仁によって伝えられ、 旅姿で馬に跨り4人の眷属(けんぞく:従者)を従えた姿です。

数多い展示品の中から国宝、紺紙金銀字交書一切経を添付します。

紺色の紙に金字と銀字が一行ごとに書かれた経典で、 見返し部分には、金色で菩提樹下釈迦説法図や経典内容が描かれています。

一切経は、文字通り、すべての経典のことで、一切経の写経は長期にわたり 莫大な費用を要する事業であり、栄華を誇った藤原氏だからこそ 3代にわたって推進し得たもので、 当初、5300巻以上あったとされますが、現在、15巻が中尊寺に伝わっています。

そしていよいよ中尊寺一番の見どころ金色堂へ。 中尊寺建立当時から現存する唯一の建物で、藤原清衡が15年の歳月をかけて造らせ、 国宝第1号。清衡没年の1128年には完成していたと考えられています。

堂の内外に金箔を重ねた豪華絢爛な阿弥陀堂で、内部には、清衡、基衡、秀衡の 遺体と泰衡の首級が安置されています。この建物ごと国宝に認定されています。

創建時から「皆金色」の仏堂と呼ばれ、伽藍の内外全体を金箔で覆うという例は、 これ以前には皆無で、まさに贅を尽くし荘厳さに満ちた極楽浄土の現出を 願ったものと言えましょう。

蒔絵、螺鈿、渡金、毛鬘(けまん)の透し彫り等の高度な技法を用いた装飾の美しさ、 4本の巻柱、長押、蛙股に使用されたアフリカ象の象牙や螺鈿細工の南海産夜光貝 等を見るにつけ、奥州産出の金や物産を礎にした清衡の莫大な財力が感じられます。

金色堂の美の余韻に浸りながら、外に出ると経堂と旧覆堂の間の道脇に 「芭蕉翁像」が置かれていました。

松尾芭蕉がこの地で残した「五月雨の降り残してや光堂」と 「夏草や兵どもが夢の跡」の名句を思い浮かべながら、源頼朝によって滅ぼされた 奥州、藤原一族の栄華と往時の文化を偲んだものでした。

なお、中尊寺の金色堂や讃衡蔵内部は撮影禁止なので、 写真は中尊寺のホームページから借用しました。