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美術館訪問記-59 フェッラーラ大聖堂付属美術館

(* 長野一隆氏メールより。画像クリックで拡大表示されます。)

添付1:コスメ・トゥーラ作
「ピエタ」
ルーヴル美術館蔵

添付2:コスメ・トゥーラ作
「ゲオルギウスの龍退治」

添付3:フェッラーラ大聖堂

添付4:フェッラーラ大聖堂付属美術館キオストロ

添付5:ヤコポ・デッラ・クエルチャ作
「ざくろの聖母」

添付6:ドメニコ・パネッティ作
「二人の寄進者のいる玉座の聖母子」

最後の1430年生まれの画家はコスメ・トゥーラ(1430-1495)。

イタリア、フェッラーラで生まれ、フェッラーラ派の始祖となり、 当時都市国家だったフェッラーラの支配者エステ家の宮廷画家として活躍しました。

パドヴァで学び、マンテーニャの影響を強く受けています。 後世に名の残る画家は皆一目でそれと判る独自の個性を身につけていますが、 コスメ・トゥーラの場合は、奇想ともいうべき強烈な感情表現と強いねじれ、 劇的な構成とやや暗めの色彩で、魔性というか、 何か健常な精神とは異なるものを発散しています。

それだけに、美術館で他の絵と並んでいても、 彼の作品が最初に目に飛びこんで来ます。

ルーヴルやメトロポリタン、ナショナル・ギャラリー等の有名美術館も トゥーラを所蔵していますが、お膝元のフェッラーラにも幾つか残っています。

今日はその内の一つ、「フェッラーラ大聖堂付属美術館」をとりあげましょう。

街の中心にあるフェッラーラ大聖堂はロマネスク様式で、 3つの三角形を連ねた独特の白大理石のファサードが魅力的です。 入口の2頭のライオン像とその上で玄関柱を支える人物像がいかにも古めかしい。 聖堂の側面がアーケードの商店街になっているのも珍しい。

キオストロ(回廊つき中庭)の美しい、付属美術館に高さ349cmの コスメ・トゥーラの大作、3連幅図があります。

もともとは大聖堂のオルガンの扉絵として描かれたもので、 中央図は「聖ゲオルギウスの龍退治」。 その左右を左側に大天使ガブリエル、 右側に聖マリアを配した「受胎告知」が挿む構図。

聖ゲオルギウスのまたがる馬の迫真的な描写、 トゥーラ独特の人物の顔の表現が面白い。 聖ゲオルギウスはフェッラーラの町の守護聖人ですが、 まるで亡者のごとき顔つきで、何やら怪奇な印象すら受けます。

その大作の裏手にあるミケランジェロの先駆者、 ヤコポ・デッラ・クエルチャの彫刻、「葡萄の収穫」と「ざくろの聖母」も素晴しい。

ガロファロの師ということだけで名が残る、フェッラーラ派の一人、 ドメニコ・パネッティの「二人の寄進者のいる玉座の聖母子」もありました。 16世紀初頭の作ですが、未だ異常に大きく描かれた聖母と玉座が 絵の中央2/3を占め、両脇には聖母の1/5以下の小さな寄進者達。

背景は写実的な自然描写があり、ここまではいかにも古めかしいのですが、 聖母の足元の敷物の配色がハッとする程現代的で、 いかにもフェッラーラ派らしいアンバランスがあります。 じっとこちらを見つめる聖母の表情と共に妙に印象に残ったのでした。

注 :

聖ゲオルギウス:ラテン語読み。聖人。歴史上の人物。生年不詳-303年没。
古代ローマ帝国の軍人ながらキリスト教に帰依し、ディオクレティアヌス帝の迫害を受けたが、信念を貫き、パレスチナで斬首され殉教したという。
竜の生贄にされそうな王女を助け、その町の住民をキリスト教に改宗させたという伝承で名高い。ギリシャ神話のペルセウスとアンドロメダと似ている。イングランド、ロシア、ギリシャ、ポルトガル、ジェノヴァ、バルセロナ、モスクワ等、多くの国や都市の守護聖人。絵画にもよく取り上げられる。
英語ではジョージ、イタリア語はジョルジョ、スペイン語はホルヘ。


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