ミシガン州、デトロイトの西50㎞足らずの所にアナーバーという都市があります。人口約12万人の内、約3万人がミシガン大学関連勤務者、内約1万2千人は大学病院関連勤務者、学生数約4万6千人という大学町です。
敷地面積約400万坪という巨大なキャンパスの中にあるのが「ミシガン大学美術館」。
美術館は1909年の創館ですが、2009年に4200万ドルをかけて増改築を行い、2600坪の展示面積のある、大学付属美術館としては世界有数規模の総合美術館。
4本の太い円柱のある新古典主義の堂々たる造りの3階建て。世界中から150年かけて集めた1万9千点以上のコレクションを誇ります。
内部も広々とした吹き抜けの空間があったりして、ゆったりと鑑賞できます。
目に留まる作品数は美術館の規模の割にはそれほど多くありませんが、古典絵画ではバルデス・レアルの「受胎告知」が白眉でした。これまで観て来た彼の作品中一番の出来と言えるでしょう。
バルデス・レアルは何回か名前を出しましたが、まだ説明していませんでした。
彼は1622年、スペイン、セピーリヤに生まれ、同地で修業後スペイン南部コルドバで画業を始めています。1647年、女流画家と結婚。
1656年にセピーリヤに戻り、圧倒的人気を誇るムリーリョと競いながら、1660年にはムリーリョと共に素描アカデミーを立ち上げたりしています。
画業では陽のムリーリョに対し陰、明に対して暗、美に対しては醜という対照的な立場のレアルですが、それだけに生の悲劇的な側面をリアルに表現するバロック絵画を代表する画家として、ゴヤの先駆者とも見做されます。
息子のルーカス・バルデスも名の残る画家となり、晩年は二人で組んで注文をこなしながら1690年病没しています。比較的長い画業のためか、レアルの作品は世界中の美術館でしばしば見かけます。
この美術館にあるレアルの「受胎告知」は前述の私のレアル感を良い意味で裏切るまるでムリーリョ的な万人に受け入れ易い表現となっているのに驚きました。
1661年の作とありますからムリーリョと創業したアカデミーで共に働くうちに相当な影響を受けていたのかもしれません。
ブグローの双子の裸の幼子を抱く若い母親を描いた「チャリティー」は彼が度々描いたテーマです。
普通慈善を意味すると思われているチャリティーですが、この場合は博愛や慈愛を意味し、誠実や希望と共にキリスト教の3大美徳の一つとされています。
アメリカ人画家ではトーマス・デューイングの「青衣の少女」が淡い空色のドレスを着た若い女性の肖像を同系色の空色の混じった茶色の背景に描き、凛とした気品を感じさせられました。
マースデン・ハートレーの「北の夏の窓」も単純化した構図と色彩で、花瓶と本の載った窓際のテーブルと窓外の夏の景色を面白く見せています。
広い館内には他にも多くの絵画や彫刻、装飾品、ティファニー製の窓ガラス、陶磁器類、仏像なども展示されており、日本の鎧、兜、刀剣類もありました。
大学のキャンパスのあちこちには彫刻やオブジェが散在していました。