シチリア島にはモザイクやアントネッロ・ダ・メッシーナ以外にも私の心を激しく揺り動かしたものがありました。
それは学生時代、友人と二人で1ヶ月、貧乏旅行をした北海道で出会った知床岬や 釧路湿原、大雪山のように原始の息吹と力強さで私に迫ってきました。
パレルモの西南にあるセジェスタの山中に鎮座する大神殿。 誰がイタリア、シチリアにこのような神殿を想像していたでしょうか。
紀元前5世紀頃にギリシャ人達によって建設されたといいます。
イタリアでは最も保存状態のよいド―リア式神殿といわれ、屋根だけがない。
正面に6本、側面には14本の円柱が並ぶ。 円柱はスライスした輪を積み重ねて出来ている。
まわりには何もなく、岩山をバックに、緑の丘陵の上に、 そのシンプルで剛直なフォルムを佇立している。 野花が僅かに足元に彩りを添える。
こういう遺跡を見る度に「夏草や兵どもが夢の跡」という感が強い。 自然に悠久の時の流れに思いを馳せる。
前に小高い山が見える。 2km近くある山道を登る。 結構きつい。
山頂には昔の住居跡の廃墟がある。 360度の眺望と、神殿が小さく遠望できる。
神殿とは反対方向に少し下った場所に劇場跡がある。
観客席は斜面を利用して作られ、眼前に山麓と海が見える。 これらを借景としてギリシャ悲劇が演じられたのでしょう。
眼を閉じると、松明に照らされた舞台と、月明かりを浴びた丘陵と海が浮かびます。 2500年前に、これらを楽しむ人々がここに坐していたのです。
日本の縄文・弥生の昔を思うと、前々回のビキニ姿の娘達といい、 彼我の差と、何がその差を生んだのか、考えざるを得ませんでした。
注:
ドーリア式:古代ギリシャ建築における建築様式の一つ。
イオニア式、コリント式と並ぶ3つの主要な建築様式に位置づけられる。
ドリス式とも呼ばれる。
古代ギリシャ建築前期のもので、柱頭に鉢形装飾や柱基を持たない。