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美術館訪問記-325 コクトーの結婚の間

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:マントンの海辺

添付2:マントン市庁舎

添付3:コクトーの結婚の間入口

地中海に面したイタリアとの国境にある南仏の町マントンには 「コクトーの結婚の間」があります。

1955年、アカデミー・フランセーズとベルギー王立アカデミー両方の会員に 選出されるという最高の栄誉を得たジャン・コクトーは66歳となっていましたが、 マントンに別荘を持つ友人の招待でこの地を初訪問。

前に海、後ろに山という地形、陽光溢れる温暖な気候、静かで美しい町を すっかり気に入ったコクトーは、ここにアトリエを構えます。

翌年、マントン市長の依頼で音楽祭のポスター制作を引き受けた彼は、 続いて1957年、マントン市庁舎内の結婚の間のデザインを依頼されます。

翌年完成したこの部屋は、正面、左右の壁、天井を埋める大壁画から、 ドアや照明、椅子、豹柄のカーペット、アロエを模した鉄製の燭台に至るまで、 すべてコクトーの手によるもの。

入口の受付で料金を払うと、日本から?と聞かれたのでそうですと答えると、 ニッコリと頷かれ、撮影禁止ですと英語で言われました。 その後、結婚の間まで案内してくれ、照明と別のスイッチを入れてくれました。 暫くすると日本語の説明が流れて来ました。

それによると、正面の壁には、結婚しようとする漁師の町マントンを象徴する 漁師帽を被った青年と若い女性の向き合う横顔が描かれています。

二人は今や結ばれようとしており、見つめ合うお互いの目の中に 彼らの将来を見出そうとしているかのようです。

女性はこの土地の伝統的なケープを着け、彼女の頭上にはマントンの シンボルの太陽がマントンの有名なミカンを象徴する黄色とオレンジ色に輝き、 男性の目は魚の形をしており、二人の背景は海が象徴的に町の色である 青色と白色で描かれています。

右の壁には東洋の婚礼のシーン。歴史上マントンの地に初めてやって来たのは サラセン人なのでした。白い馬に乗る2人を祝福する3人は結婚の贈り物の 花と果物を持っています。 この人達は東方の3博士の来訪を暗示しているのでしょうか

左の壁にはギリシャ神話オルフェウスをモティーフに恋人エウリュディケが 再び黄泉の国に連れ去られる場面が、ケンタウロス達が射殺される戦闘場面を 背景に描かれています。

天井には舞い上がる翼の生えた男たち。

マントンの住民は全てこの結婚の間で結婚式を挙げます。 なぜなら市庁舎で挙げた結婚式のみがフランスの法律上、有効な結婚なのです。

勿論、そうしたければ教会や家庭で結婚式を挙げても構いません。 しかしフランス国家の法律上はそれらは正式な結婚とは認められないのです。

(添付4:コクトーの結婚の間内部、添付5:婚約者たち、添付6:新婚旅行および添付7:オルフェウスは著作権上の理由により割愛しました。
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