ボストンから北北西に200km足らずの場所に、人口11000人余りの ニューハンプシャー州ハノーヴァー町があります。
ここに1769年創立でアイビー・リーグでは最北にあるダートマス大学があります。 全米最古のMBA(経営学修士)であるタック経営大学院を抱える総合大学です。
「フード美術館」がその大学付属美術館。1772年開館と大学付属美術館としては 米国最古で6万5千点以上の所蔵品があります。現在の建物は1985年完成。
ペルジーノの出来のよい大型宗教画が部屋の正面から迎えてくれます。
殺到する注文を捌くために大工房を構えて、パターン化したデザインで描いていた ペルジーノらしく、何処かで観た要素が集まっていますが、それでも素晴らしい。
ペルジーノの聖母子に比べると、およそ150年後に描かれたサッソフェッラートの 聖母子は、ぐっと現代的で、まるで庶民の母子のようになってきますが、 生き生きとして生命力があり、360年前に描かれたとは思えない親近感があります。
サッソフェッラートの本名はジョヴァンニ・バッティスタ・サルヴィ(1609-1685)。 イタリア中部、マルケ州の出生地サッソフェッラートの名前で呼ばれる事が 多いのですが、本名のサルヴィで表示されている事もあります。
画家だった父親から学んだ後ローマを活動拠点として、 アンニーバレ・カラッチの弟子ドメニキーノに師事しており、 グイド・レーニはメンターの役割を果たしています。 時代はバロックですが、古典的かつ端正な宗教画に真骨頂を発揮しました。
彼の最高傑作はロンドンのナショナル・ギャラリーにある「祈りの聖母」でしょう。
漆黒の背景が聖母のみを浮かび上がらせ、白いヴェールと赤い服、 ウルトラマリンのマント、黒い闇の空間的バランスと色彩が見事です。
マリアの端正な顔と相まって、当美術館の聖母とは異なる、 思わず観る者を敬虔な気持ちにさせる神性を備えています。
この絵は評判が高かったようで、サッソフェッラートは同じような絵を 幾つも残しています。
他にもイタリア、フランス、イギリス、アメリカの画家達の作品が数多くある中で、 ポンペオ・バトーニの良品肖像画2点、アルマ=タデマの佳品「彫刻ギャラリー」、 ヴュイヤールの珍しい海岸風景画が特に印象に残りました。
深く記憶に刻まれたのは、背中を斜めに糸で刺繍したような インディアン女性のヌード写真で、これは体罰なのか、祈りの表現なのか、 祭事に関係している事なのか、ファッションなのか、それとも単なる傷痕なのか、 キャプションには何も書いていないのでした。