美術館訪問記-257 名古屋市美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

添付1:名古屋市科学館外観

添付2:名古屋市美術館入口

添付3:名古屋市美術館南側

添付6:キスリング作
「マルセル・シャルダンの肖像」

添付8:ディエゴ・リベラ作
「プロレタリアの団結」

前回、「ユニークな美術館」と書きながら、名古屋市内にあるユニークな建物と その前にあるユニークな美術館を思い出していました。

中部地方の美術館は前回初めて採り上げたので、ここで中部地方の中心、 名古屋市にある美術館を少しカバーしておきましょう。

ユニークな建物とは、世界最大のドーム直径35mのプラネタリウムを有する、 名古屋市科学館。

名古屋市の中心部にある白川公園内の北側に、その巨大な球形が、 東西の高層ビルディングの間に浮かぶ景観は偉容であり、異様でもあります。

初めてこの景観を目にした方は、誰でも思わず自分の眼を疑うでしょう。

その300m四方の白川公園の一角にあるのが「名古屋市美術館」。

1988年開館で地元名古屋市近郊出身の黒川記章の代表作とされています。

熱田神宮の鳥居から着想を得たというグリッド状のアプローチからしてユニークで、 これから非日常の空間へ入って行くのだという期待を抱かせます。

西欧と日本の文化の共生を意図したというこの建築と調和するように 美術館前の広場にはアレクサンダー・カルダー作のモビール彫刻が鎮座しています。 そのカラフルな形状と5枚の翼が風に揺れながらゆっくりと動く姿は、 のどけさと遊びの心が感じられ、可愛くもあります。

建物の高さが公園の美観を損ねないよう2階建に押さえられているため、 地下1階の展示室入口前は吹き抜けにして圧迫感をなくしており、 アプローチ横からなだらかな斜面庭園にして、 地下から見ると1階の感覚になるように造ってあります。

その地下1階の入口前には吹き抜けを利用して、アメリカのシアトル美術館 傍にもあったジョナサン・ボロフスキー作の「ハンマリング マン」と レッド・グル―ムス作の「ウールワース・ビルディング」が置かれていました。

この美術館は「エコール・ド・パリ」、「メキシコ・ルネサンス」、 「地元作家による現代美術」の 3つの柱を中心に作品の収集・展示を行っています。

エコール・ド・パリの筆頭に挙げたいのは藤田嗣治の「自画像」。 藤田の世界的名声を確立させた滑らかな陶器の膚を思わせる乳白色の下地を ふんだんに使い、もう一つのトレード・マークの細い線を生み出す面相筆を持って、 目立つために工夫したおかっぱ頭とロイド眼鏡、チョビ髭姿の自画像。

不動の人気の女性像を画中画とし、彼の大好きな猫も配した サービス満点のおいしい絵です。

モディリアーニの「おさげ髪の少女」、パスキンの「横たわるエリアーヌ」、 キスリングの「マルセル・シャルダンの肖像」、ユトリロの白の時代の2作、 スーティンの2作、ドンゲン、ローランサン等が続きます。

メキシコ・ルネサンスの収集は、愛知県瀬戸市にアトリエを構え、 中日文化賞を受賞した北川民次(1894-1989)に由来しています。

彼は20歳でアメリカに渡り、ニューヨークで劇場の舞台背景を制作する職人として 働きながら、国吉康雄と共にアート・ステューデンツ・リーグで 絵画の基礎を身につけた異色の経歴の持ち主です。

9年後にはメキシコに移り、革命後のメキシコで、美術を民衆のものにすることを 目指した野外美術学校の運動に加わり、児童美術教育の実践に取り組み、 37歳でタスコの野外美術学校校長に就任しています。

1936年に帰国すると、メキシコ的な題材を、かの地の壁画を思い起こさせるような ダイナミックな構成によって描いた作品群を発表する傍ら、 名古屋市内に児童美術研究所を開設。児童美術教育を推進しました。

1978年には東郷青児の死去後、彼の跡を継いで二科会の会長も一時務めています。

この美術館には彼の作品を中心として、北川民次がメキシコで交友を深めた オロスコ、リベラ、シケイロス、タマヨ、ボサダ等 メキシコ美術の代表者達が揃っています。

地元作家では愛知県木曽川町生まれの川合玉堂の「秋嶺白雲」や前田青邨の日本画、 愛知県稲沢市生まれの荻須高徳の「洗濯屋」や中村正義、桑山忠明等の洋画。 愛知県尾西市生まれの三岸節子と、その夫で名古屋市の旅館で客死した 三岸好太郎の作品もありました。

(添付4:ジョナサン・ボロフスキー作「ハンマリング マン」、添付5:藤田嗣治作「自画像」、添付7:北川民次作「トランバム霊園のお祭り」、添付9:川合玉堂作「秋嶺白雲」および 添付10:荻須高徳作「洗濯屋」は著作権上の理由により割愛しました。
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