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美術館訪問記-25 アーマンド・ハマー美術館

(* 長野一隆氏メールより。画像クリックで拡大表示されます。)

添付1:アーマンド・ハマー美術館が入居しているビル

添付2:モロー作
「ヘロデ王の前で踊るサロメ」

添付3:モロー作
「出現」
ルーヴル美術館蔵

添付4:モロー作
「ヘロデ王の前で踊るサロメ」
メナード美術館蔵

添付5:モロー作
「ダビデ王」

添付6:ドーミエの彫刻群

添付7:サージェント作
「自宅でのポッティ博士」

モローの傑作は世界各地の大美術館に所蔵されていますが、 彼の最高傑作が見られる美術館は、ギュスターヴ・モロー美術館以外では アメリカ、ロスアンジェルスにある「アーマンド・ハマー美術館」でしょう。

ここにはモローの最高傑作と言える「ヘロデ王の前で踊るサロメ」と 「ダビデ王」が2作並んで展示されています。

前者は薄暗いアーチの連なる宮殿の広間が舞台。 中央に玉座に坐るヘロデ王、その左前に豪華な装飾品と衣装を着けたサロメが 光を浴びて、純潔の象徴の白百合を右手に掲げ、左手を前に出し、 両足はバレエダンサーのように親指の先だけで直立している。 今にも官能的な踊りを始めようという佇まい。

その左後ろには王妃ヘロデヤが柱の後ろに顔を出している。 その前には女楽士が楽器を手に坐っている。 王の右前には右手に抜き身の剣を持った刑吏が赤い衣装を着け直立している。 画面の右端には赤い絨緞の敷かれた床上に黒豹が寝そべっている。 モローのみが創り出し得た怪しい雰囲気を湛えた稀有な空間です。

ただサロメを主題としたモローの絵は、ルーヴルにある「出現」を始めとして 前回添付図も含め幾つかありますし、この絵の水彩画版は愛知県小牧市にある メナード美術館でも観ました。 但し水彩画の方は23cm x 15.7cmと小さいのに比べ、 こちらの油彩画の方は143cm x 104cmと格段に大きく、 細部も描き込まれていて迫力はまるで違いますが。

「ダビデ王」の方は230cm x 138cmと更に大きい。 画面はずっと明るく、縦長の画面の半分は老いたダビデ王を象徴するような 薄暮の空で、貴石で飾られた八角形の太い宮殿柱が2本、 その空を遮って佇立しており、その柱が支える天井から炎が灯された香炉が 垂れ下がっている。

その下に階段のついた大理石の玉座に、長い白髭を垂らした老いたダビデ王が 白金らしい豪奢な王冠を被り、同じく白金の装飾が施された青衣を身に着けて、 生気のない顔を右下に向けて物憂げに坐っている。

玉座の背もたれは赤いエメラルドのような貴石が嵌り、 青衣とコントラストを成している。 彼の足元には対照的に赤と金色の衣装を身に着け、 赤い羽根を生やした若い天使が階段に横坐りし、 生気溢れる目でこちらを見つめている。その左手は竪琴の上に置かれている。

ダビデ王はペリシテ人の屈強な戦士ゴリアテを投石によって倒した逸話でも 知られるように、武勇に秀でていただけではなく、音楽や詩にも長けていました。 モロー自身の言葉によると、彼の傍らに描かれた天使は、 「彼の魂の生き生きとした擬人化」であるといいます。 この絵は類似品を観た記憶がありません。

これらモローの傑作の見られるアーマンド・ハマー美術館はロシア系ユダヤ人で ニューヨーク生まれながら、レーニンに信頼され米ソ間の貿易を一手に扱い、 莫大な資産を作った、元オクシデンタル石油会長のアーマンド・ハマー (Arm and Hammerつまり鎌とハンマーという共産主義のシンボルから命名された)が、 自身のアートコレクションを寄贈したことから 1990年に誕生した比較的新しい美術館です。

ロスアンジェルスのビジネス街の中にある高層ビルの一角にある、 オクシデンタル石油本社に隣接して建てられたこの長方形ビルの美術館は 7300平方メートルあり、当時6000万ドルかかったといいます。

ハマーはオクシデンタル石油のイメージ向上のためとして、 オクシデンタル石油の取締役会を説き伏せ、この資金を全額出資させ、 オクシデンタル石油の株主から資産浪費で訴えられています。 ハマーは美術館開館の15日後に死亡しました。92歳でした。

企画展会場を除いた常設展会場は3部屋しかありません。 しかし中味は濃く、ティツィアーノ、ティントレット、ルーベンス、レンブラント、 ゴヤ、ジェリコー、コロー、ピサロ、マネ、ドガ、シスレー、セザンヌ、モネ、 ゴーギャン、ゴッホ、ロートレック、ボナール、ヴュイヤール等多彩です。

特にドーミエのコレクションは、珍しい彼の彫刻作品も含め、油彩、デッサン、 版画等、世界でも最大といいます。 アメリカ人画家もステュアート、エイキンズ、カサット等が展示されており、 中でもサージェントの「自宅でのポッティ博士」は赤いガウンを着て立つ博士の 寛いだ姿を縦長の大画面に描いて目を惹きます。 アーマンド・ハマー・コレクションはハマーが28年間に渡って主要メンバーだった、 ロスアンジェルス・カウンティ美術館にも別けて展示されています。

美術館訪問記 No.26 はこちら

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