ジョルジュ・ド・ラ・トゥールというと思い出すのが、 アメリカ、テキサス州フォートワースにある「キンベル美術館」。 蒲鉾を6つ並べたような面白い屋根と構造を持つ、外見は倉庫のような美術館です。
最後の巨匠と呼ばれるルイス・カーンの設計。
普通美術館は、光が過度に作品に当たらないよう考慮されている所が多く、
中には薄暗くてよく見えない場所があったりしますが、
ここは天窓からの柔らかな拡散光によって、
自然の光に包まれた状態で鑑賞できます。
半円形の屋根に取り付けられたスリットとアルミニウムのパンチングメタルに
工夫があるようです。
この美術館のコレクションの殆どは ケイ・キンベルとその妻ヴェルマの収集作品です。 キンベルはテキサス生まれ。中学を中途退学してオフィス・ボーイからスタートし、 70もの会社のオーナーになった立志伝中の人物です。
前回、ルーヴル美術館の「ダイヤのエースを持ついかさま師」を掲載しましたが、 キンベル美術館にはダイヤをクラブにした以外は殆どそっくりの 「クラブのエースを持ついかさま師」があります。
最初に訪れた時は、何故ルーヴルの絵がここにあるのかと、 白昼夢を見る思いだったのですが、よく観るとダイヤとクラブ以外にも違いが 多々見えてくるのでした。 皆さんも2つの絵の違いを探してみて下さい。
他にもベッリーニ、マンテーニャ、パルミジャニーノ、カラヴァッジョ、 ティントレット、ティエポロ、ルーベンス、レンブラント、ヴェラスケス、 ミュリロ、ゴヤ、ターナー、ドラクロア、クールベ、コロー、マネ、ピサロ、 ドガ、セザンヌ、モネ、マティス等、名画がごろごろしています。
古代ギリシャ、ローマの彫刻や、アフリカ、メキシコ、インド、中国、日本などの美術品も 収集しており、日本の埴輪、快慶の仏像や尾形乾山の茶碗などもありました。
それほど大きな美術館ではありませんが、光溢れる、 アメリカ一の小美術館と言えるでしょう。
キンベル美術館は2009年5月、ミケランジェロの「聖アントニウスの誘惑」を 購入したと発表しました。 これは油彩とテンペラで描かれた47x35cmのパネル画で、 描かれたのは推定1487-1488年、つまりミケランジェロ12-13歳の時。 構図、配色、絵画テクニック、どれをとっても一流大家並で、 とても12・3歳の子供の作とは見えません。 ミケランジェロの天才たる所以でしょう。
この頃彼は美術館訪問記‐1, 2で書いたドメニコ・ギルランダイオの工房に 入っていました。 この絵はメトロポリタン美術館が検証し、2009年6月16日から9月7日まで メトロポリタン美術館特別展"Michelangelo’s First Painting”に展示されました。
その後キンベル美術館で常設展示されています。 ミケランジェロのパネル画は世界に4点しか残っておらず、 1点がウフィツィ美術館にある有名な「聖家族」、 2点の未完成作がロンドンのナショナル・ギャラリーにあります。 いずれも油彩とテンペラで描かれています。
つまり、ここにあるのは世界にたった2つしかない ミケランジェロの完成パネル画の内の1点なのです。
ちなみにミケランジェロの「聖家族」の額縁は、制作当時のままで、 ミケランジェロ自身の設計と言われています。 このような人頭彫刻付きの額縁は非常に珍しく、 私はこれまで他に3例しか見た事がありません。
追記:第11回で触れたバーンズ・ファウンデーションの新館に行ってきました。
外見は添付7のように3層からなる花崗岩のような外見の立方体の上に
ガラス製の立方体を乗せた形をしています。
この立方体の中に入ると、入れ子のように、添付8で見られるような3層の
立方体があります。中央にあるのが入口。手前は天井まで吹き抜けの広い空間。
入口を入った後は撮影禁止でお見せできませんが、入って驚きました。
何度か行ったメリオンの内部と完全に同じ造り。作品展示方法も全く同じ。
2階も含め全ての部屋が完全に合同に造られているのです。
つまり、メリオンの館をそのまま持って来て、それを厚い壁で包んだのが
新館と言えます。素材や空調、防犯等の設備は勿論異なっているでしょうが。
違いは売店やカフェが吹き抜けになった部分の地下に広く造られている事です。
昔なかったカタログ本もカラーのハードカバーの立派なものができていました。
フィラデルフィアの街中になったためか、入場者も多く、メンバーも新たに
23000名増加したと言っていました。