台湾、中華民国の首都台北に「国立故宮博物院」があります。
大英博物館、ルーヴル美術館と並んで世界三大博物館と言われますが、 他に比べると建物の物理的規模はかなり小さい。
またカバレージも他の二つが世界中の文物を網羅しているのに比べ、 中国関連の物に限られます。
それでも収蔵品数は696,344点と膨大で、3カ月毎に展示品の入れ替えを行っていますが、 全ての所蔵作品を観るのには、展示替え毎に通っても10年近くかかるとか。
昨年、所蔵品の一部が上野の東京国立博物館で展示されたので、長時間並んで 見物された方もおられる事でしょう。
故宮博物院は、元々中華人民共和国の北京にある紫禁城宮殿に清朝所有の美術品等を1925年に公開したのが最初で、その時には所蔵品117万点を数えたといいます。
その後日本軍の進軍や、中国共産党の台頭により、各地に分散し、 最終的に蒋介石の中華民国政府が1948年秋、清選した2972箱を台北へ移送。
現在故宮博物院は中華民国の台北と、 中華人民共和国の北京、瀋陽市の3箇所に存在しています。
国立故宮博物院は台北市の北方に位置し、小宮殿の趣。 4階建てで、4階はカフェ、3階は主として工芸品、2階は書画、陶磁器、 1階は青銅器、甲骨文字の展示に使用されていました。
古いものでは新石器時代の玉璧などもありましたが、 西周時代後期に作られたという青銅器の鐘「宗周鐘」には122文字の銘文が 刻まれており、周の厲王が自分の戦績を誇るために作らせたもので、 天子が直接製作を命じた例は大変珍しいことなのだとか。
書聖と呼ばれた王義之(307-365年)の書も、日本に文字が伝わる前の書き物で、 よくもこれだけ古いものが残っているものだと驚きました。
范寬の「溪山行旅図」は中国山水画の名手の唯一の真筆だそうで、 見つめていると、中央の山塊が大きく迫ってくるようで、緻密に描かれた 中景と相まって画家の気力と迫力を感じました。
翡翠で作られた「翠玉白菜」は19世紀末の作という比較的新しい物ながら 故宮博物院で最も有名な彫刻とされ、清の光緒帝の妃である瑾妃の持参品で、 白菜は花嫁の純潔を、葉に彫られたキリギリスとイナゴは多産を意味するのだとか。
興味深かったのは郎世寧の作品。 彼はイタリア人で本名ジュゼッペ・カスティリオーネ(1688-1766)。
ミラノで絵を学んでいたカスティリオーネはイエズス会の宣教師になり、 1715年中国へ渡り、布教活動を行っていましたが、画才を認められ、 清朝の康熙帝、雍正帝、乾隆帝の三代に亘って清朝の宮廷画家として活躍。
添付の絵は、中国伝統の絵画技法に西洋の透視図法や西洋画の顔料を 使用しているので、画面に中国と西洋両方の趣を湛えています。