チェコ共和国の首都プラハに国立美術館群があります。 群というのは初めて出て来ましたが、プラハの国立美術館は下記のような それぞれ違った場所にある7つの全く異なる建物で構成されているのです。
この中から今回は「ヴェレトゥルジュニー宮殿」を採り上げましょう。
というのも、ここは宮殿と呼ぶには抵抗のある7階建ての近代的ビルディングで 7つの国立美術館中最大の展示面積を誇っているのです。13500㎡、4090坪。
他の3つの宮殿はいかにも宮殿らしい外観なので、 何故このビルが宮殿と名付けられたかは不明ですが、1928年見本市用に建てられ、 1974年の大火災後修復されて、1995年、国立美術館となりました。
外にある大きなアンリ・ルソーの自画像の看板を見て中に入ると広い吹き抜けで 7階まで見通せます。ガラス張りのエレベーターで7階まで上がり、 順に観ながら下りていきます。
チェコの国立美術館ですから上部階はチェコの芸術家達の作品で占められており、 チェコ出身の画家と言うとムハ(フランス語ではミュシャ)とクプカぐらいしか 知らなかったのですが、幾つか目に付く作品がありました。
チェコの切手の原画にもなったヤロスラフ・チェルマークの「モンテネグロの聖母」、 ヴァーツラフ・ブロジックの「グレイファウンドを連れた貴婦人」、 エミール・フィッラの「ドストエフスキーの読者」、 ジョゼフ・シマの「ある風景」や「ベレニス・アボットの肖像」 ベドリッヒ・ステファンの彫刻「アブサンを持つ女」等。
4階の半分は近代フランス絵画に充てられていましたが、 これが驚くばかりの良質のコレクションで、ドーミエ、ドラクロア、コロー、 クールベ、ピサロ、ドガ、シスレー、セザンヌ、モネ、ルノワール、ルソー、 ゴーギャン、ゴッホ、ロートレック、ボナール、マティス、デュフィ、ピカソ、 ブラック、アンドレ・ドラン、レジェ、ユトリロ、ビュフェと切りがありません。
来合せていたアメリカ人らしい老婦人が “I have no idea why they could have these here.” 「どうしてこんなものがここにあるんでしょう」と呟いていたのも宜なるかな。
ルソーの「自画像」やゴーギャンの「ボンジュール、ムッシュー ゴーギャン」、 ロートレックの「ムーラン・ルージュにて」、ピカソの「自画像」、 ボナールの「プロヴァンスでの会話」等は中でも印象的。
下の階にはクリムトやアンソール、ムンク、ココシュカ、 母親がボヘミア出身のエゴン・シーレ等の作品が並んでいました。
クリムトの大作「乙女」は特に素晴らしい。
虚無を暗示する黒色を背景にして、不安定な楕円形の中に7人の乙女たちが 空虚とも歓喜とも取れる表情で、華やかな色彩と紋様に包まれています。 クリムト50歳時の晩年の代表作です。
これだけの佳品が揃う美術館ながら、プラハの町の中心から少し離れた 場所にあるためか、当時の日本のガイドブックには記述がなかったのでした。
現在ではどの本にも紹介されていますが。