スペイン、トレドに「エル・グレコの家」があります。
しかしここに実際グレコが住んでいたわけではなく、 20世紀に入ってベガ・インクラン侯爵が グレコの住んでいた家の近くの廃墟を改築したものなのです。
ベガ・インクラン侯爵はスペインの観光事業に力を注いだ人で、 世界でも珍しい国営のホテル「パラドール」の第1号を自分の山荘を提供して造り、 今ではスペイン中に93箇所ものパラドールができています。
特にトレドのパラドールはトレド旧市街を一望できる絶好の場所にあり、 レストランも素晴しく、よい部屋をとるには1年前から予約が必要なくらいです。
侯爵は当時海外に流出しつつあった、グレコ作品を買い集め、 私財を投じてこの美術館を造りました。1911年の開館。
彼はマドリードにも、 自宅とコレクションを提供してロマンティシズム博物館を創立しています。
エル・グレコの家はグレコの暮らしていた16-17世紀の家屋を再現しており、 魅力的なパティオや台所、食堂、居間、寝室、書斎、アトリエには 当時の家具や調度品が置かれています。
グレコ作品は2階建ての部屋のあちこちに展示されていますが、 晩年に書かれた12使徒の連作も含めて23作品があります。
なかでも「トレドの景観と地図」はここの白眉と言うべきで、 詳細な地図と景観は400年前と現在のトレドが大差ないことを示しています。
このようにヨーロッパで都市の姿が描かれた最初の例の一つは イタリア、シエナのプッブリコ宮殿に残るアンブロージョ・ロレンツェッティ作の フレスコ画「善政の効果と悪政の効果の寓意」の「善政の効果」の部分でしょう。
この図から当時の都市と田園の生活が窺い知れます。城壁に取り囲まれた町、 街中の建物、町や田園で働いたり通行したりする人々の姿が 生き生きと表現されていて、700年近い時を経て、 変わったものと変わらぬものとの差の少なさに驚かされます。
エル・グレコの家にはグレコ以外にも 同時代を生きた数人の画家の作品が展示されており、 いかにグレコが他と異なる独自の才能の持ち主であったかを認識させられます。